戦後間もない1952年に「東京アートディレクターズ(ADC)」の設立と共に誕生した朝日広告賞。敗戦から奇跡の復興を遂げ,高度経済成長,バブルとその崩壊といった激動の時代と共に,その世相を反映しながら優れたクリエイターたちを生み出す広告業界の登竜門的存在となってきました。
現在,企業広告として掲載されたポスターを対象とする「広告主参加の部」と,若き新人クリエーターたちが自由に腕を競う「一般公募の部」とがあり,これまで両者とも優れた受賞作品を残してきました。
受賞作品から垣間見られる日本経済
記念すべき第1回朝日広告賞最高賞受賞作品は,「銚子醤油(現ヒゲタ醤油)」の広告で,新聞紙面の下半5段の小さな広告ですが日本らしい版画的な力強いイラストで,見る人に独特の印象を与えました。
その後1950年~60年代には,高島屋や伊勢丹といったデパート広告やサントリーのトリスウィスキー,松下電器などが受賞作品の常連となります。当時デパートは中流階級に属する日本人たちにとって憧れの場所であったこと,また徐々に豊かになり始め一般人にも各種の電化製品に手が届くようになってきたことなど,ここに当時の日本経済を垣間見ることができます。
現在の朝日広告賞の傾向
朝日広告賞の誕生から60年以上が経過した現在でも,「一般公募の部」は若きクリエーターたちの登竜門として,また「広告主参加の部」では企業の窓として注目され伝統ある広告賞として高く評価されています。デザイン性も年ごとに高くなっており,審査が白熱するのも毎回の事です。
朝日広告賞以外にも毎日広告デザイン賞やADC賞など様々な広告デザイン賞がありますが,朝日広告賞の場合特に広告の対象となるブランドの個性を引き出すデザイン,メッセージ性の高いデザインが高く評価される傾向にあるようです。
特にインパクトを与えた受賞作品
例えば最近の受賞作品,2015年度第64回の朝日広告賞・広告主参加の部最高賞は,宝島社の30段広告です。樹木希林さんが小川で死を迎える,オフィーリアの役を演じるミレイの名画「オフィーリア」のパロディは,それだけでも見た目に強いインパクトを与えるのですが,キャッチコピー「死ぬときぐらい好きにさせてよ」は,高齢化社会にある日本において「いかに死ぬか」を考えさせるものとなっています。
これは誰もが当事者となるテーマであり,加えてあまり多くを語らないコピーから,見る人にそれぞれ「これは何を言いたいんだろう?」と考えさせることができると言う点で,非常に秀逸な作品と言えるでしょう。